訝しげな目を向ける与一に、藍はじたばたと両手を振り回しながら叫んだ。

「妙なもんも何も。あの男、こともあろうに、あたしの手に口をつけたのよっ!」

「あの男?」

藍はきゃんきゃんと、衆道街で会った男のことを話した。

「ふぅん。なかなか気障ったらしい奴ですね」

「そうでしょ! だから、ほらっ!」

目に涙を溜めて、藍はなおも与一の顔の前に手を突き出す。

「いや、だから・・・・・・何です?」

突き出された藍の手首を掴み、与一は藍に相変わらず怪訝な顔を向けた。

「さっきも言ったでしょ! よいっちゃん以外の男に、触れられるのは嫌なのっ!」

騒ぎまくる小型犬のように、きゃんきゃんと藍が吠える。
まるで小さい子供が泣き喚いているようだ。

「いやだから、この手は何なんですか」

さっぱりわからない。
陰間役を引き受けろということか?