驚きと、悔しさと、何故か微妙な悲しさで、藍は心の中で毒づきながらも涙ぐんだ。
ひとしきり笑った後、藍の涙に気づいた風弥は、手を伸ばして涙を拭った。
その手に食い付いてやりたいと思いながら、藍は、あくまで軽く、風弥を睨む。
「そう睨むな。まさか、そこまで怒るとは思わなかったな。いや、悪かったよ。だが、ますます惚れた。どうか、次会うまで、客は取らないでくれ」
微笑んで言いながら、風弥は懐から出した財布を、藍に差し出した。
「客を取らにゃ、生活に困るかもしれないだろ。これを渡しておくから、次会うまでの足しにしな」
受け取った財布は、ずしりと重い。
藍は財布を開くと、中から銀子を少しだけ取った。
「相当なお金持ちなんだね。いいよ、次あんたに会うまで、客は取らない。これは、今日の代金。これ以上はいらないよ」
風弥の手を取り、ぽん、と財布を握らせると、藍はさっさと踵を返した。
「安心してよ。約束は守る。金なんかで契約しなくたって、旦那とは必ずまた会うから」
何か言いかけた風弥に早口にそう言うと、藍は、じゃーね、と手を大きく振って駆けだした。
一刻も早くこの場から逃げ出したかったが、逸る気持ちを抑えつつ、不審でない程度の速度で衆道街を走り抜けると、しばらく市の中を早足でちょろちょろと行き来し、十分間を置いてから、人気のない路地に飛び込むと、一目散に色町の家を目指して速度を上げた。
ひとしきり笑った後、藍の涙に気づいた風弥は、手を伸ばして涙を拭った。
その手に食い付いてやりたいと思いながら、藍は、あくまで軽く、風弥を睨む。
「そう睨むな。まさか、そこまで怒るとは思わなかったな。いや、悪かったよ。だが、ますます惚れた。どうか、次会うまで、客は取らないでくれ」
微笑んで言いながら、風弥は懐から出した財布を、藍に差し出した。
「客を取らにゃ、生活に困るかもしれないだろ。これを渡しておくから、次会うまでの足しにしな」
受け取った財布は、ずしりと重い。
藍は財布を開くと、中から銀子を少しだけ取った。
「相当なお金持ちなんだね。いいよ、次あんたに会うまで、客は取らない。これは、今日の代金。これ以上はいらないよ」
風弥の手を取り、ぽん、と財布を握らせると、藍はさっさと踵を返した。
「安心してよ。約束は守る。金なんかで契約しなくたって、旦那とは必ずまた会うから」
何か言いかけた風弥に早口にそう言うと、藍は、じゃーね、と手を大きく振って駆けだした。
一刻も早くこの場から逃げ出したかったが、逸る気持ちを抑えつつ、不審でない程度の速度で衆道街を走り抜けると、しばらく市の中を早足でちょろちょろと行き来し、十分間を置いてから、人気のない路地に飛び込むと、一目散に色町の家を目指して速度を上げた。


