「ま、あの人がよいっちゃんを可愛がってたのは事実でしょ。何か、置屋の旦那によいっちゃんのこと、頼んでたじゃない。無駄なことよね~、亡八に泣きつくなんて」

亡八とは、仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌の八徳を失った者のこと、転じて置屋の主人のことを言う。
それほど非道ということだ。

「俺も藍さんも、亡八じゃないですか」

二人とも、殺しを仕事にしているのだ。
置屋の主人のほうが、まだマシなのではないか。

が、藍は、ふん、と鼻を鳴らす。

「それは人の考え方次第よ。生き地獄を味わわせないだけ、あたしたちのほうが、お優しいとも言えるのよ」

こういうところに、藍の本性が見えるのだ。
そして、藍の言うことも、もっともだと思える自分も、十分藍と同じ種類の人間なのだろう。