「そういや昨日、西の川で土左衛門があがったってねぇ。もしかして、あれは旦那の仕業かい?」

冗談めかして言った藍に、風弥は口角をつり上げた。
否定も肯定もしないが、その表情が全てを物語る。

「ますます旦那が、怖くなったよ。いきなり良い旦那に巡り会えたと思ったのに」

怯えたように後ずさる藍に、風弥は素早く近づき、腕を取る。
咄嗟に風弥の手を打ち落とそうとする己の手の動きを、藍は歯を食いしばって抑えた。
その隙に、たちまち風弥の腕の中に閉じ込められる。

---こいつ! ただの道楽者じゃないわ---

先程の、一瞬で距離を詰める身のこなしは、素人業ではない。
藍だって玄人だ。
本来ならこのような拘束、あっという間に振りほどけるが、今は駄目だ。

風弥の腕の中で、藍は悔しさにぎりぎりと歯噛みした。