「じゃあ、お近づきの印に、名前を教えておくれよ」

無邪気な笑顔で、藍が男を見上げて言った。

「そうだな。俺は風弥(ふうや)。お前は?」

「らんまる」

我ながら安直な名前だと思いながら、藍はよどみなく名乗った。

「らんまるかい。らんまるは、随分線が細いんだなぁ。ほら、俺の腕の中に、すっぽり収まってしまうぜ」

風弥は言いながら、藍を抱きしめる。
藍はひっそりと、顔をしかめた。

「こんなところで、気の早いお人だねぇ。まずはお話って言ったろう」

「ふふ。ほんに可愛いのぅ。俺はここの常連だが、お前のような奴は初めてだ。慣れてないというのも、なかなかいいものだな」

藍の肩を撫でながら、風弥は愛おしそうに言う。
撫でられている肩から腕に粟肌が立ち、藍は心の中で、うにゃーっ! と叫んだ。