「無理をするな。客を待つ間、時間潰しに好きでもないものを注文する奴も、珍しくない。お前もそうなのだろう?」

言いながら、男は皿に乗った団子を手に取った。

藍は、じっと男を見る。
慣れた感じだ。
この街の、常連のようだ。

「詳しいね。ま、確かにあんたの言うとおり、団子はさほど、好きじゃないかも」

男が団子を口に運ぶのを見ながら、藍は少し笑った。

「お前、新参者か? 決まった店はあるのか?」

男の言葉に、藍はきょとんとした。

衆道街では、女郎屋のように置屋に身を置き、客を待つ陰間と、店だけを決めておいて、街頭で客を引っかけ、契約した店に連れ込む陰間との二通りがいる。
男は藍を、後者の陰間と思ったのだろう。

「ああ、いや。えっと、そんなことは、まだいいじゃないか。まずは、仲良くならないとね」