---女郎屋のように、張り見世があればいいのに---

張り見世があれば、そこで言葉を交わすことができる。
うまくいけば、部屋に入るまでもなく、その場で情報を得られるかもしれないのだ。

---おまけにここには、お稲荷さんもないしさ!---

ぶつぶつと思いながら、手に持った団子の串で、皿の上の二つ目の団子をつついていると、不意に視界が、ふっと翳った。

顔を上げると、目の前に背の高い男が立っている。
逆光でよくは見えないが、妙な感じもしない。

男はしばらく藍を見下ろしていたが、やがて団子の横に腰を下ろした。

「団子は、好かぬか」

低い声で言う男に、藍はいつものように小首を傾げた。

「好きじゃなきゃ、注文しない」

藍は、ちょっと腹に力を入れ、若干でも声を低くして言った。