「辰巳さん、大丈夫か?」

助け起こすと、辰巳の左肩に、苦無が刺さっていた。

与一は辰巳の着物をはだけ、突き刺さっている苦無の辺りを調べた。
幸い動脈などからは外れている。

「・・・・・・抜くぜ」

言うと同時に、与一は苦無を辰巳の肩から引き抜いた。
血が溢れ、辰巳が顔をしかめる。

与一は辰巳の片袖を引きちぎり、布を裂いて傷口を縛った。

「ありがとうよ。あんた、見かけによらず、随分手際がいいな」

額に汗を浮かべて言う辰巳に、与一は少しだけ口角を上げた。

「今日のところは、帰るよ。あんたも、休んだほうがいいだろ」

言って与一は、足元に注意しながら、ゆっくりと立ち上がった。

この機会に、いろいろ聞いておきたいが、これ以上ここに留まれば、こちらの出血に気づかれてしまう。
すでに与一の右半身は、血みどろなのだ。

走れるだろうか、と思いながら、与一は下駄屋を出、色町のほうへと歩き出した。