翌日、昼を過ぎてから、与一と藍は連れだって、色町を歩いていた。

藍は、今日は男物の着流し姿。
髪もおろして一つに括っただけの、与一とほぼ同じ出で立ちだ。
相変わらず、笠は被っているが。

藍は、仕事中はあまり素顔を曝さない。
裏の世界で暗躍するのに、ずば抜けた美貌なのが目立つからだ。
店内での食事時や、取らないと返って不審な店以外では、極力笠を深く被っている。

基本的に、仕事に関する人間で、藍の美貌を拝めるのは、この世の終わり。
藍に殺される直前なのだ。

故に、裏の世界では名の通った藍だが、名前は知っていても、顔を知っている者は、ほとんどいない。

例外として、色町の裏世界を知る女衒(ぜげん)や人買いの類は、その特殊な情報網を使うこともあるため、付き合いがある者もいる。
与一を連れていた人買いも、その一人だ。

「お嬢さん、似合いますね」

与一が隣を歩く男装の藍に声をかける。
藍はちらりと笠の奥から与一を見上げ、にこっと笑った。

「えへ。そぉ?」

袖を振って、にこにこと笑いながら、大股で歩く。

「今回は、いろいろ大変ねぇ。陰間を探るには、男装しないといけないし。あたしが男装するってのも、結構無理あるわよね~」

「ま、随分小さい男ではありますけどね。ああいう世界は、若いほうが良いでしょうから、大丈夫なんじゃないですか?」

今日は、藍が昨日の陰間を調べ、与一は下駄屋のほうに行くのだ。

「本来は、役目が逆なんですがねぇ」

与一は前を行く小さい後ろ姿を眺めて呟いた。