もう何時間走っているのだろう、とぼくはこの吐き気を抑えながらずっと思っていた。いい加減、引っ越し先に到着してもいい筈なのに。


「もう少しで着くんだから我慢だ、我慢」


母さんがからかいながらぼくに言った。どうやら母さんは、この吐き気とぼくとの闘いを楽しんでいるみたいで、心配なんかしてくれなかった。この人は心配という言葉を知っているのか、とぼくはいつも思う。


ぼくは今、車で引っ越し先へと移動中なのだが、なかなか目的地に着かなくて、それで、乗り物酔いしやすいぼくは当然の事ながら吐き気と何時間も闘っているわけで。

そして、ぼくは吐き気を何時間も耐える事ができる程、強いわけでもないわけで。


「もう限界…」


もう駄目だと思い、座席の隣に置いていたビニール袋を手に取った時だった。


「ねぇ見て、虹よ!綺麗だわ」


母さんが空を見上げて驚喜していたので、ぼくも窓を開けて空を見上げた。すると今にもその、溶けてしまいそうなくらい青い空に、大きな、とても大きな、見たこともない虹があった。

ぼくは驚いて言葉を失い、吐き気までもが治まった。まるで、この世界とは別の世界に在る、七色に輝く虹の様に思えた。


呆然としているぼくの手から離れたビニール袋が風で飛んで、開けていた窓から七色に輝く青空へと舞い上がっていった。



その光景は今もこのぼくの目を離れなくて、忘れられない。