「ちょっと眠れなかったのよ」
「…悩み事?」
「…」
「何?」
「秘密!」
琴は腕を組んで偉そうに微笑んだ。
「なんだよ、ケチ〜」
唇をとがらせてアヒル顔になる真人。
「大人には子供には言えない秘密が沢山あるの」
「子供扱いか〜」
アヒル真人の横顔は正にあどけなくて可愛い。
琴はそれを見てキュンとしながらクスクス笑った。
「何が可笑しいの?」
「…白居くんて可愛いね…ハハ」
「笑いは余計だよ」
文句を言いながらも真人は頬を赤らめていた。
「ほら、早く学校行って!ヤマかけ作業開始!」
琴は真人の背中を両手で押した。
「教師の言う台詞かよ…」
「都合のいい時だけ教師にしないで」
真人にだけ聞こえるようにボソッと呟く琴。
真人はニンマリと笑みを作ってピースサインを琴に向けながら走り去って行った。
「ごめんね、真人」
真人の背中を見送りながら零れる小さな言葉。
やっぱり
まだ本人からは聞けない…
聞くのが怖い…
聞いて、嫌われることが怖いの…
時間が断てば、いつか自然に聞けるような気がしていた琴だった。
その時は、そう思うしかなかった。
真人の身に異変が起きていること…

