亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


促されるまで気付かなかったが、視線を下ろせばそこにはゴミの山…に紛れた異質なものが横たわっていた。
恐らく、ここら一帯に蔓延している鼻を突く異臭の主な根元はこれだろう。ティーも興味深げに熱心に嗅いでいる。
形容しがたい酷い臭いにも怯むことなく、黒ずくめの人物と共にサナはじっと………その、蠅の集った亡骸を見詰めた。


ゴミの海に横たわるのは、死体だった。
ボロボロの衣服から覗く肌は血の気が無く、所々赤黒い。獣からかじられたのか、くっきりと歯形が残っていた。
固い肉塊から突き出た剥き出しの骨が、暗色だらけの中で驚く程白く映えていて、好奇心から思わず伸ばしたサナの手を、黒ずくめの人物がやんわりと掴んで引き戻した。

腐りかけの死肉にかじり付こうとするティーも片足で後ろに退かせると、黒ずくめの人物はゆっくりとサナを見下ろしてきた。

フードの内の暗がりは相変わらず晴れる気配がない。だが、互いの視線は交わっている気がした。


「何となくだけれど、君の事を知っているよ。…と言っても、これは知人の憶測でしかないのだから、もしかすると全くの見当違いであったりするかもしれないがね」

「………うー…?」

乾いた笑みを含んだ言葉に、サナは首を傾げる。ぼんやりとした彼女の頭の中では、それはやたら長いだけの不可思議な音色としか捉えられなかった。

右に、左にと繰り返し首を傾げ続けるサナの可愛らしい素振りに再び笑みをもらしたかと思うと……不意に真っ黒なフードがサナの目と鼻の先にまで迫った。


一気に暗くなる視界の中。
互いの吐息がかかるくらいの至近距離で、目前の人物は彼女にしか聞こえない囁き声を、弧を描く唇からそっと漏らした。








「―――君は、こんな所で何をしているんだい?君が知人の予想通りの者であるとしたら………………こんな所で子猫と鬼ごっこをしている訳が無いだろうに」


「………?」