秋めいた柔らかい日差しの下。
伊藤君の四輪駆動車が遠ざかるのを目で追いながら、浩二が静かに口を開いた。
「いいのか?」
「うん?」
「伊藤に、お前の気持ちを伝えなくても、いいのか?」
――私の気持ち。
あなたが好きだって。
誰よりも、あなたが大好きだって。
ずっと、心の一番奥深いところで、息づいていた思い。
伝えたい――。
だけど。
「……うん。いいの」
だって。
今の私じゃダメだから。
伊藤君のように、夢を叶えるために努力しているわけでも、
ハルカのように、ひたむきに自分の生と向き合っているわけでもない。
ただ漫然と、なんとなく毎日を、流されるままに過ごしてきた。
そればかりか、
自分の心を偽り優しい人を欺き続けて、最後には手酷く傷つけてしまった、そんな人間だ。
だから――。



