好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


秋めいた柔らかい日差しの下。


伊藤君の四輪駆動車が遠ざかるのを目で追いながら、浩二が静かに口を開いた。


「いいのか?」


「うん?」


「伊藤に、お前の気持ちを伝えなくても、いいのか?」


――私の気持ち。


あなたが好きだって。


誰よりも、あなたが大好きだって。


ずっと、心の一番奥深いところで、息づいていた思い。


伝えたい――。


だけど。


「……うん。いいの」


だって。


今の私じゃダメだから。


伊藤君のように、夢を叶えるために努力しているわけでも、


ハルカのように、ひたむきに自分の生と向き合っているわけでもない。


ただ漫然と、なんとなく毎日を、流されるままに過ごしてきた。


そればかりか、


自分の心を偽り優しい人を欺き続けて、最後には手酷く傷つけてしまった、そんな人間だ。


だから――。