お焼香をすませ、すぐに帰らなければいけない伊藤君を、私と浩二は火葬場の玄関ポーチまで見送りにでた。
「忙しいのに、今日はすまなかったな、伊藤」
申し訳なさそうに言う浩二に、伊藤君は、柔らかい笑みを向ける。
「日本に戻ったら、改めて墓前にお参りさせて貰うよ。その時は、一緒に酒でも呑もうや佐々木。佐々木――、亜弓ちゃんも一緒に」
佐々木が二人いるからか、伊藤くんは、私を『亜弓ちゃん』と呼んだ。
なんだか、こそばゆいような、恥ずかしいような妙な感覚に捕らわれて、私はちょっと焦りながらコクンと頷いた。
「うん、そうだね。呑もう、呑もう!」
「ああ。俺も、楽しみにしているよ」
浩二もそう言って、笑顔にはほど遠いものの、微かに口の端を上げる。
私は、一つ大きく息を吐き出し、背筋をしゃんと伸ばして、伊藤君の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「伊藤君」
「うん?」
「サッカー、頑張ってね。いつだって、一番に応援してるからねっ!」
これが、今の私のせいいっぱい。
友達として、親友の従姉として、サッカーという夢に挑戦し続けている伊藤君に送ることの出来る、せいいっぱいの言葉。
「ああ。ありがとう。頑張るよ」



