「大丈夫」
また涙の余韻が冷めやらず、再び熱いものが込み上げてきてしまった私は、優しく響く伊藤君の声に、ハッとして顔を上げた。
「え?」
「浩二は、大丈夫だ。アイツは、そんなに弱い人間じゃない。きっと、三池を最後まできちんと見送ってやりたいと、それが最後に自分ができることだと、そう思っているんだろう」
「最後に、自分ができること……」
「アイツなら、大丈夫。でも――」
「でも?」
「おそらく、全てが終わったら大泣きするだろうから、そのときは佐々木、君が側にいてやってくれ。俺には、それが出来ないから……」
伊藤君の、少し鋭い感じのする切れ長の目が、ちょっと寂しそうに細められる。
そうだった。
伊藤君は、浩二の一番の親友。
私が知らない浩二を、伊藤君は知っている。
浩二のことを、たぶん私以上に、一番良く理解してくれている人だ。
そうだね。
今は、ハルカをきちんと見送ってあげなくちゃ。
私にとってもそれが、最後に、ハルカにしてあげられること。
「うん。まかせておいて。浩二が大泣きしたときの特大ハンカチの役割、しかと、この佐々木亜弓が承りました!」
おどけてガッツポーズを作る私に、伊藤君はあの少年のような笑顔を返してくれた。



