荒れ狂う波に押し出されるように、込み上げてくる熱いものが、せきを切って溢れ出そうとしたその時。
「佐々木!」
ふいに、前の方から声を掛けられて、私は、弾かれたように視線を上げた。
低音の、聞き覚えがある落ち着いた声音――。
巡る視線の先で、喪服に身を包んだ長身の男性が、駐車場の方からゆっくりと私の方へ歩いてくるのが見えた。
「伊藤君……」
どうして?
ここに来るはずがない、その人の名前を、私は掠れる声で呟く。
「急なことで大変だったな……。浩二も、来ているんだろう?」
心配そうに、私に向けられる瞳は、相変わらず真っ直ぐで陰りがない。
私は、私より頭一つ分高い位置にある、その瞳を静かに見つめ返した。



