好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


ハルカが、もしかしたら命が危ないって局面で、恋人の伊藤君にその状況を知らせない――。


そんなこと、あっていいわけがない。


私は、信じられない思いで、浩二の横顔を凝視した。


「伊藤には、伝えていない」


表情を変えることなく、浩二は呟く。


「な……んで?」


「……」


沈黙。


それが、浩二の答えだった。


浩二はハルカが好き。


ハルカの思い人の伊藤君は、邪魔者だ。


だから、ハルカの危篤を伊藤君に伝えない。


実に、簡潔明瞭な理屈じゃないか。


よもや――。


よもや、我が従弟が、ここまで性根の腐った人間だなんて、思いもよらなかった。


情けなくて、


情けなさ過ぎて、涙も出てきやしない。


ギュッと唇を噛んで、私は、浩二を殴り飛ばしたい衝動を、ギリギリのところでこらえていた。