ハルカが、もしかしたら命が危ないって局面で、恋人の伊藤君にその状況を知らせない――。
そんなこと、あっていいわけがない。
私は、信じられない思いで、浩二の横顔を凝視した。
「伊藤には、伝えていない」
表情を変えることなく、浩二は呟く。
「な……んで?」
「……」
沈黙。
それが、浩二の答えだった。
浩二はハルカが好き。
ハルカの思い人の伊藤君は、邪魔者だ。
だから、ハルカの危篤を伊藤君に伝えない。
実に、簡潔明瞭な理屈じゃないか。
よもや――。
よもや、我が従弟が、ここまで性根の腐った人間だなんて、思いもよらなかった。
情けなくて、
情けなさ過ぎて、涙も出てきやしない。
ギュッと唇を噛んで、私は、浩二を殴り飛ばしたい衝動を、ギリギリのところでこらえていた。



