そう言えば。
恋人の一大事だというのに、肝心の伊藤君の姿がどこにも見えない。
ふと、そのことに気付いて、私は浩二に耳打ちした。
「浩二……、伊藤君は?」
伊藤君が所属するサッカーチームを抱えているのは、地元の大手家電メーカーだ。
この中央病院までなら、車で三十分とかからない。
少なくても、私と同じくらいの時間には連絡が行っているだろうから、もう着いていても良いはずなのに。
それとも、試合で、地方とかに出ていてすぐには来られないんだろうか?
「……言ってない」
相変わらずドアに視線を固定したままの浩二の呟きに、一瞬、意味が分からずに思考が止まる。
え……?
「言ってないって……、どういうこと?」
嫌な予感が走り、私は思いっきり眉根を寄せた。
まさか。
まさか、ハルカが危篤だって、伝えてないってことじゃないよね?
だって。
そんな馬鹿なこと、あっていいわけがない。



