好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


そう言えば。


恋人の一大事だというのに、肝心の伊藤君の姿がどこにも見えない。


ふと、そのことに気付いて、私は浩二に耳打ちした。


「浩二……、伊藤君は?」


伊藤君が所属するサッカーチームを抱えているのは、地元の大手家電メーカーだ。


この中央病院までなら、車で三十分とかからない。


少なくても、私と同じくらいの時間には連絡が行っているだろうから、もう着いていても良いはずなのに。


それとも、試合で、地方とかに出ていてすぐには来られないんだろうか?


「……言ってない」


相変わらずドアに視線を固定したままの浩二の呟きに、一瞬、意味が分からずに思考が止まる。


え……?


「言ってないって……、どういうこと?」


嫌な予感が走り、私は思いっきり眉根を寄せた。


まさか。


まさか、ハルカが危篤だって、伝えてないってことじゃないよね?


だって。


そんな馬鹿なこと、あっていいわけがない。