「うん。私も覚えてるよ」


それは静かに奥まで届いて。

硬い朗の表情がゆっくりと緩んでいくのが、まるで陽だまりのようなそれに、溶かされていってるみたいだと思った。


「私が今よりもっとしわしわになって、ぼけちゃって何もわかんなくなっても、朗くんと夏海ちゃんのことはずっと覚えてるから」


それはきっと、本当に守られる約束ではないのかもしれない。

例えばいつか、記憶に障害でも持つようになれば、一瞬出会っただけのわたしたちのことなんて、何よりも先に忘れてしまうだろう。

いや、そんなものなくても、時が経てば思い出すこともなくなって、いずれ忘れたことすら忘れてしまうんだ。


そんなことは、わかっている。

わかっているけど、今だけは。



「さようなら。またいつか」



この瞬間、わたしたちが見ている、そして感じているこの瞬間が。

朗の中で、おばあさんの中で、そしてわたしの中で、永遠に続いていくのだと、信じていたかった。