椅子から立ち上がり、窓辺に飾られた写真立てを手に取る。


そこには、温厚そうな中年の男。

微かな記憶から、以前センツァー社の名簿で見た橘貴史だと気付く。

そして、写真立ての中、その橘の隣で幸せそうに微笑む、先程遇った少女、サクラー。


やはり、あの少女は橘の娘…?

一つ、結論が出たかに思えたが、


(ん?…)
 

違和感を感じ、紫苑は写真をよく見る。


写真は、長い時を刻むかの様に色褪せていた。


 幸せそうに微笑む少女。
 来客にハシャイでいた少女。
 色褪せた写真。



 何かが、紫苑の中で音を立てて、動いた。