泊まる?夜の蝶であったとはいえ、私は自分を安売りすることはしなかった。
思えば私はこの数年間、男と外泊などしたことが無かった。
数年それが長いと感じる人もいるだろ。
だけどそれが長いとすら私は感じていなかった。


泊まるということは、それなりのことが起こるかもしれない。
大人ならそのぐらい理解できている、だけど私は期待にも似た感情を抱いていた。
「うちに泊まる?」
私はそのメールに返信をした。
「うん。」
そう一言。

案の定その夜私は、彼に3回抱かれた。
私は彼に好きだと言った。何度も・・・何度も・・・。
彼はありがとう。
ただその言葉を私に返した。
気付けば何時だってそうだった。
彼が私に好きだといってくれたことは一度もない。

彼がレギュラーで出演するイベントには必ず参加するようになった。
オールイベの時は外のタイムズに駐車してある私の車で密会をした。
私は彼の腕に手を絡ませ、厚い胸板に顔をうずめた。
そうしているだけで幸せだった。

数回目の泊まりを重ねた日彼が私にこういった。
ゴムとって生でする?中でイこうか?

怖くて何もいえない私・・・。
彼を好きなはずなのに・・・。

答えられない私に彼が強引なことをするわけもなく。
プロテクトの仲に彼の体液が包まれた。

彼はいつでも最高に優しかった。

好きなのに何故怖かったの?

私は自問した。

なぜなら私は知っていたから。
彼が私を好きになることはない。
本当に私を愛してくれる日は永遠にこないと。

来週は違う女を抱くことも。
彼の部屋に入る女は私一人ではないことも。
彼にとって私は一つのおもちゃでしかないことも・・・。

彼は誰かを本気で好きになったことはあるのだろうか?
彼のリリックに載せたイニシャルは忘れられない人なのだろうか?

皮肉にも私のイニシャルと同じ文字・・・。
時々冷たくなって壊れそうなハートを暖めるために、私は擬似的感覚に浸った。
あれは私のイニシャルだと・・・。

誰のイニシャル?
誰かを好きになったことはある?
そして一番聞きたいこと。
好きな人はいるの?
もしその言葉が声に出せたなら・・・。
答えたくなければ聞こえないふりをしてくれてもかまわない。