久しぶりにこの街を歩いた。
ふと立ち止まった目の前に、見慣れたはずのカフェ。
瞬間、胸がキュッとなる。
……無意識のうちに、避けてたんだと思う。



「ごめん。もう、無理なんだ」


様子のおかしかった君に、思い切りぶつかった結果、引き出された言葉。



こんなことを聞きたくて、勇気を出したんじゃない。
涙をこらえるように、じっとテーブルの上のコーヒーカップを見つめていた、あの日。



このカフェで私は、たくさんの想い出を、手放した。



君に知られないように、涙が涸れるまで泣いた。
その辛さが蘇るようで、なかなか来られなかった場所。



あの日以来、だ。



……紅茶を、頼んでみようかな。
今日は暑いし、スッキリとレモンを浮かべたい。
そして、グラスを片手に、窓の外を見よう。

案外、悪くないかもしれない。
だから。


「いらっしゃいませ」


あの頃と同じトーンの、店員の声。
でも気持ちはずいぶんと、前向きで。
あのころの想いを、上書きできそうで。


頼んだレモンティーの氷が、グラスで涼やかな音を立てて、溶けていった。