それからしばらくして、何杯目かのビールを飲みながら、ステージに見入っていたら、隣にちょこんと小さな影。


「あ、久々。元気かオマエ?」

「元気だよ。眞樹さんこそ、元気なの?またやらかしたらしいね」


父さんから聞いたよ、と言いながら皮肉っぽく笑うのはオーナーの息子だ。名前はなんだっけ?よく覚えてない。ただ男のくせに女装が似合うっていう、少し変わったヤツ。


「やらかしたっつーかさぁ、我慢出来なくて。どうしても違うんだよな、俺が欲しい声とさぁ」

「欲張りなんじゃないの?」


息子は揶揄するように上目遣いで笑った。意地の悪い笑い方だなぁ、と思う。こういうとこ、沢口オーナーにそっくりだ。


「ささやかなもんだと思うぜ~?重くてパワーがあって、聴いてる奴らを串刺しにできそうな。でもバラードとか歌わせたらしっとりとしてて」

「それを欲張りと言わずして何て言うのさ?」


呆れた視線で溜め息を吐かれてしまった。