「これは、オマエが俺を見限った時に返せ」


それまで預かっとけよ、とかなんとか呟いて、敦士は顔を背けてしまった。でも俺は、その耳が赤くなってるのを見逃さない。


「あ~、照れてんだ?」

「違う」

「んじゃ嬉しいんだ?」

「違う!」

「じゃあじゃあ泣いてんだ?」

「うるっせぇジジイ!!」


ひゅっ、と空を切る音がしたと思ったら敦士の長い足が俺のすねに入った。強烈な痛みが左足を襲う。


「いてぇ!!いってぇよ敦士!!ひどっ、ドラマーの足は大事なんだから!!」

「知るかボケッ!!」


うーわ、ムカつく。やっぱり生意気だこのガキ。ちょっと優しくしてやりゃあこの態度。

思わず、敦士の肩に置いていた手に力を込めて、身体ごとライヴハウスの壁に押し付けていた。ガツッ、と鈍い音に敦士の顔が痛みに歪むのを見下ろしながら。


「忠告しておくけど、今度そういう口をキいたら酷いから。君の声はぁ、俺がいただいたんだからぁ、イイ子にしててよ。ね?」


低い声で言って、最高に嘘っぽい笑顔を作ってやった。

うん、我ながら酷いな。