「でもその当たり前で普通のことさえ今の敦士には出来てないだろ?」

「それはっ」


ぐ、と言葉に詰まってしまった敦士は唇を噛んだ。

あーあー、傷ついた顔しちゃって。
なんだか頭を抱えたい気分だ。正直、思っていたよりも敦士はガキっぽくて扱いに困る。

俺は、目の前でうなだれてしまったガキの肩をガシッと掴んで、こっちを向かせた。


「あーもう、めんどくさいからさぁ、理由なんてどうでもいいから歌えよ。マジで嫌だったら辞めればいいから」


な、と片目を閉じて笑って見せる。

これは女の子相手にしかやんないんだけどなぁ、ホントは。

なんてこと思いながらも笑顔のままで敦士の頭をぐしゃぐしゃと掻き回してやる。

さっさと頷け、このガキ。

なんかだんだん面倒になってきた。いや、最初から面倒なんだけどさ。


「だったら……」

「なに~?」

「だったらテメェ、責任とれよ」


最後まで付き合えよ。

その言葉が、見捨てるなよ、と言っているような気がした。
敦士は、手にしていた煙草の箱をグシャリと握りつぶし、こっちに差し出してきた。