「歌ってよ。俺の為に……ってのは気持ち悪いから~、そうだな、自分の為に歌えよ」

「俺の為って、なんで」

「だってオマエ、歌ってないと腐っていきそう。てか実際そうだろ?ひでぇ顔してるもんな。ホントは歌いたくて仕方ないんじゃないの?」


敦士が先程ライヴハウスの中で見せた表情を思い出す。そこには仲間に捨てられた悔しさや情けなさ、悲しさが浮かんでいたけれど。その中に垣間見えたのは嫉妬。

ステージに立つボーカリストへの確かな嫉妬と、歌うことへの渇望。

コイツは歌うことに餓えてる。

それを見た時、そう思った。


「歌わないとオマエ、此処が、壊れるよ」


火のついていない煙草の先で、敦士の心臓を指す。ジャケットの上からそこをトントン、と小突いたら、その身体が一歩後ずさった。


「……っ、テメェとバンド組んで、何かいいことでもあるのかよ」


鋭く真剣な瞳が俺を睨み上げ、問う。縋るような眼だな、と思った。


「あるよー、イイこと沢山ある。オマエは歌えるだろ、俺は叩ける。ライヴも出来る。女の子にモテる。ほら、イイことだらけじゃん?」

「はっ……、馬鹿だろオマエ、そんなん普通のことじゃねえか」


くだらねぇ、と吐き捨てて敦士は再度煙草を取り出した。