「吸うなってことか、な」
ふと沢口登の、バンドも禁煙も長続きしないよね、と咎めるような視線を思い出して苦笑がもれた。
アイツの呪いか?
そんなふざけた事を思い付いて肩をすくめる。
「んー。願掛け、してみっかなぁ」
独り言のように吐いた言葉に、即座に心が固まる。
次に煙草を吸うのは、コイツの声を手放す時だ。それはつまり俺が、バンドを諦める時。
「よし、敦士!オマエも今日から禁煙だ!これリーダー命令。決まり!」
「はぁ?何?頭わりぃんじゃねえの、オマエ。てかリーダーって何?」
突然のことに、2本目の煙草を吸い始めようとしていた敦士が、冷たい視線で俺を睨み上げる。
う~ん、その生意気な目。屈伏させ甲斐がありそうだなあ。
「リーダーといえばバンドリーダーに決まってんじゃん、俺と君の新しいバンドの、ね」
「誰がヤるなんて言ったよ?!」
「えー、駄目?」
「俺、オマエ嫌いだから」
まだ長い煙草を足下に投げ、またも靴底で踏み潰しながら視線を泳がせる敦士は、どうやら動揺している。
もう一押し、かな。
目の前にいる、俺の理想の声を手に入れるために俺はまた、言葉を紡ぐ。



