「とにかくさ、俺は敦士の声で叩きたいと思ったの。この声なら、俺の最後のボーカリストになってくれるかも、ってね」
それは敦士を安心させるためのその場しのぎのものでも、大袈裟な冗談でもなくて、本気だった。
もうこれ以上解散歴、増やしたくないんだよねー。
なんて、軽い調子で重い台詞を吐いてみたら、案の定微妙な顔をされた。
「まあ、敦士くんのそのクソ生意気な性格とか?ムカつく程傲慢な態度とか?なんかミョーに女の子にモテそうなとことか、すっげえ気に食わないけどさ、声だけはホント、気に入ってる」
爽やか笑顔で意地の悪いことを言ってみれば。
「あのさ、人がオチてる時に更に追い討ちかけてヘコませるの、アンタの得意技なわけ?」
俺の台詞を聞いた後で、呆れたような表情になって敦士はそう言った。
微かに笑みを滲ませたその表情は無理したものじゃないみたいだ。
その顔を見て、少し安心する。それは今までの敦士が見せていた笑顔ではなくて、どこかすっきりとしたそれだったから。
「そうだよー、俺は人をイジメるのが大好きだからねぇ。あ、でも気に入った子限定で、ね」
意地の悪い笑みを敦士に向けてから、再び新しい煙草に火をつけようとライターを取り出した。しかし強い夜風に吹かれたそれは、なかなか火がつかない。
何度やっても消えてしまうそれを、首を傾げながら見て仕方なくポケットに戻した。



