無理矢理合わせた視線を逸らすことなく敦士は小さく溜め息を吐いた。
「不安だし、こえぇよ。正直、めちゃくちゃ……怖い」
手にしていた煙草がすっかり短くなっていることに気付いて、敦士はそれを足下に放り投げ、靴底で踏み潰す。
ザリザリと耳障りな音をたてる足元に、俺は少しだけ眉を寄せる。
「何が怖い?」
想像はもちろんつく。けれど、珍しく素直になってるコイツを見ていたら少しイジメてやりたくなった俺は、相当意地が悪いのかもしれない。
んーやっぱり俺ってドS?
表情に出さないまま内心苦笑していたら、敦士の声。
「全部……」
「え?」
「全部だよ。また、オマエは要らないって言われるのも。笑われるのも。アンタと……上手くやれるかも。とにかく全部だよ」
ポツポツと呟くようにそう言葉にした敦士の様子を見ていたら、思わず手が動いていた。目線の高さにある、その頭にポンポンと軽く触れる。
「案外かっわいー」
わざとふざけた調子でそう告げると、数秒間、意味が分かんないって顔したあとで、みるみるうちに顔を赤くした敦士。頼りない街灯の明かりの下でも相当真っ赤なのが分かった。
「な、っざけてんじゃねえっつうの!」
「あははー、だってほんとだもん」
「まじうぜー」
そう言って俺の手を振り払った敦士の顔はでも、それほど怒ってはいなかった。



