「……何が?」
問い掛けからしばらくしてから、地面を見つめたままの敦士がやっと口を開いた。
「君のその自尊心とか、高慢な心とか、まあ……いろいろ?」
音楽に対する今までの姿勢、一回全部ぶち壊したらいい。
そしたらきっと楽になる。
俺の言葉に、俯いていた顔を上げた敦士は。
「そんなもん、とっくに壊れてる」
そう言って笑った。今にもひび割れて剥がれそうな、そんな笑顔を見て、少しだけやりすぎたかな、なんて思う。
BLACK NOISEの奴らが新しいボーカル入れて、今日お披露目って知ってて連れてきたから、罪悪感が胸を刺した。
「なんでアンタが困った顔してんの」
のっそりと立ち上がった敦士は、自分のジャケットから煙草とライターを取り出した。緩慢な動作で火をつけてから、ゆっくりと煙を吐き出す。
暗い瞳が真っ直ぐ前を見つめたまま、唇だけが動いた。
「俺はアイツらの“声”にはなれなかったってことだろ……はは、だっせぇよな」
ボロボロと灰がくずれ落ちる煙草をくわえたまま、敦士は笑う。
それを見つめたまま黙っていた俺に向かって、また口を開いた。
「なあ、橘」
「なに?」
流すような視線をこちらにくれながら、濃い影に縁取られた眼が俺の顔を覗き込む。



