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敦士がトイレから戻ってきたのはBLACK ROSEが最後の一曲のイントロをスタートさせた頃だった。
暗いフロアでも丸わかりの血の気の引いた顔で、壁際にいた俺の隣に無表情のまま並んだ。
見てるこっちの胸が痛くなりそうなその様子に、こっそりと息を吐く。
ステージ上でハスキーボイスを響かせる女は、既にオーディエンスを虜にしている。初のステージでこれだけ盛り上がってれば充分だろう。
隣で腑抜けになってる敦士がいた頃とはまた違う魅力があることは違いない。きっとこれからも伸びる。
そんなことを考えながら改めて隣を見れば、瞬きもせずにぼんやりとステージを見つめる敦士。
あー、こりゃ完全に折れてるわ、心が。
曲が最後の大サビに入った時、今にもぶっ倒れそうになってるそのひょろいガキの腕を、俺は無言でひっ掴んで出口へと向かった。
ライヴハウスの外壁にもたれ、そのまま地面に腰をおろしてしまった敦士の頭頂部を見下ろしながら、煙草を取り出し火をつける。
「壊れた?」
そのうなだれた頭に向かって問い掛けてみた。



