VOICE【re:venge】



一曲目が終わった直後、ボーカルの女が笑った。その視線が、こっちを見ていた。

紛れもなく、俺の顔を見ていた。

その、口紅すら塗ってない、薄い紅色が動く。


「今日から生まれ変わった私たち、BLACK ROSE、よろしく」


勝ち誇ったような、笑顔と声が俺に向けられる。

胸糞わりぃ。

女の視線から逃れるように目線をずらしたら、再度目の前の橘と視線がぶつかった。


「傷付いた?」

「っ!!」


相変わらずずけずけと人の胸の中に踏み入ってくる。返す言葉も見つからないまま、力任せに橘の足を蹴っていた。
ちょうど向こう脛に当たったらしい蹴りに、顔をしかめたのを放ったまま、俺はハコの片隅にあるトイレへ足を向けた。

胃の内側から這い上がってくる吐き気に、限界が来ていた。
駆け込むように個室のドアを乱暴に開け、鍵をかけるのも忘れて屈み込む。


「う、ぐ……っ、はぁっ……っ」


空っぽの胃の中からは吐き出すものなんてなくて、嘔吐感だけが喉の奥に居座った。無理やり指を喉に突っ込んで吐き出すのは、俺の弱さだ。

涙の浮かぶ目尻を雑に拭って、便器の蓋の上にへたり込んだのと、トイレのドアが開けられたのが同時。