走るようなビートを刻むギターに乗って紡ぎ出された声。女のそれとは思えないような、ハスキーな低い響き。
力強く底辺を這う、囁きにすら思える歌声に腹の底が震えた。
なんだよ、これ。
「へぇ、いい声じゃん」
感心したような呟きを吐いた橘の声。驚いたような表情の中の黒い目は、ステージを見て笑っているように見えた。
その眼差しに、心臓が潰されるように痛む。
あれは俺よりもいい声なのか?
あの女のために、俺はアイツらに切られた?
橘も、あの声がいいって言うのか?
……俺より?
ぐるぐると回りだした思考に、思わず片手で額を押さえていた。目眩がするような気さえしてくる。
「……ざけんな」
小さな呟きは、女のかすれた歌声に掻き消されて霧散する。
握った拳が震えた。
逃げ出したい心は「早く動け」と叫ぶのに、固まった脚はライヴハウスの床にくっついたまま。
泣きたいのか怒りたいのか、叫びたいのか、なにがなんだかわからないままで壁に張り付いたままステージを凝視していた。



