「離せよマジで」
自分よりも上にあるその瞳から視線を逸らして、ステージへ目をやった。
そこにはちょうどトリを飾るバンドが、ステージ袖から出てきたところで。
その、薄暗い中に立つシルエットを見た瞬間、身体が石になったみたいに固まってしまった。
ステージに立つ奴らの姿に、見覚えがあることに俺は愕然とした。
「……っ」
喉が変な音を立てた。上手く息が吸えない。
アイツら……っ。
ぐ、と握り締めた掌に、嫌な汗が滲んでいた。
「あー、あの子たちね、キミをクビにした後すぐに新しいボーカル入れたんだってね」
感情のこもらない、薄っぺらい声で橘が呟いた。
それが尚更俺の胸の内に突き刺さるように響く。
ステージを照らし出す照明が、アイツらの姿をはっきりと俺の網膜に焼き付ける。ドラムセットをバックに、ギター、ベースに守られるように舞台の中心に立つ……それは、ついこの間まで俺自身の場所だったのに。
「な……んで、よりによって……」
切れ切れにしか言葉が出てこない。
悔しい、恨めしい、情けない、そんな負の感情ばかりが塊みたいに俺の喉を塞いでた。
マイクスタンドに手をかけ、今まさに口を開こうとしているのは、俺の知らない奴。
しかも、女だ。



