「黙れ糞ガキが」
凄みをキかせて至近距離で耳元に囁く。
「こんなとこで暴れてみろ、今度は口じゃなくてケツにツッコむよ?火のついた煙草」
「……っ!!」
途端に固くなった肩を軽く叩くようにして腕を回した。端から見たら仲良く肩組んでるみたいに。
いかにもな作り笑いを唇に乗せ、俺はユキにもひとこと告げる。
「悪い、ユキ。此処でやらかすのはお前にとってはマイナスにしかなんない。抑えてくんね?」
俺の言葉に、ユキは握り締めていた拳をゆっくりとほどいた。目つきは相変わらず鋭いまま、だけど静かな口調で。
「はい……すいません、どうしても我慢できなくて」
「お前のせいじゃない。ユキの事情も知らずにコイツ連れてきた俺が悪いんだって。ごめんな?」
唇を噛んで俯いたユキの、ふわふわした頭に手のひらを乗せた。ポンポン、と軽く撫でるようにしてから、俺は敦士に向き直る。
さてどうしてくれようか、このガキ。
殴られた時に切れたのだろう、唇の端に血が滲んでいた。
「取り敢えずお前、こっち来い」
口に突っ込んだ煙草を取り返し、再び敦士の腕をひっ掴んで、俺はドリンクカウンターとは逆の壁際へと移動することにした。



