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俺はそんなに優しくもないし、弱ってる奴に気を使ってやれるほど器用でもないから。
ステージに上がらない、なんてぬかした敦士の顔は見ないふりした。
なぁに今にも泣き出しそうな顔して笑うんだか。
呆れるくらいにイタいガキだ。
「ほい着いた」
目的の場所に着いた俺は掴んだままだった敦士の腕をほどいてやった。
握りっぱなしでやや痺れてる手指を解しながら背後を見やれば。
あ、やっぱり固まってる。
声を出さないままで敦士の唇が「なんで」の形に動いた。薄い唇が微かに震えてる。
その場で棒立ちになったままの敦士が見上げてるのは、俺達の目の前にある建物。
ライヴハウス“Shangri-La”
BLACK NOISEがラストライヴをした場所だ。
レンガを積み重ねたような洒落た外壁の一ヶ所、小さな鉄製の錆びた扉が有るだけの、一見怪しい外観。
やっぱり俺ってばサディストかなぁ。
数日前、この計画のことを相談した沢口オーナーの反応を思い出す。
『そりゃ結構エグいんじゃないのかい、眞樹くん。君ホント、見た目に違わずドSだよねー。息子の言うとおりだ』
ていうか人のことドSって。沢口ジュニアは一体なにを吹き込んでくれてんだか。今度会ったらお仕置きしてやる。



