「えー、ヤろうよー。もしかして前のバンド干されたの、トラウマだったりするのかな~?」
トラウマ。その単語にまた、耳を塞ぎたくなった。
「違う」
疼く傷口を引っかかれたみたいに、心臓が痛くて苦しい。
俺はあんなことくらいで駄目になるような弱い人間じゃない。絶対に違う。
「まあとりあえず行こうよ。じゃあね、お嬢さん。俺達これから用があるから」
「え?あ、ハイ!マサキさんのドラム楽しみにしてますから!」
「あっりがとー」
高い声と媚びた笑顔の女に、ひらひらと片手を振った橘は容赦ない強さで俺の腕を掴んで歩き出した。
自分の考えにはまり込んでた俺は油断してた。
気付けば表通りに連れ出されて、夜中なのにウルサいくらいの人通り。
「敦士くんさぁ、自分で気付いてる?」
ざわめいた雑踏の中、チラリと俺を振り返った橘は薄く笑う。
今日はおろしたままの長めの髪が揺れた。
「何?ていうか腕離せよ」
「駄目。逃げるつもりだろ?」
先手をとられた。
ぐいぐいと引っ張られる腕を掴む強さは、少し和らいだものの、振り解けないのは以前もやられたから分かってる。



