「どうせならアンタも順市さんみたいにホストにでもなったら?顔だけは兄弟揃っていいんだから」
「な……」
急に兄貴の名前を出されてカッとなった。反射的に目の前の女の二の腕を掴んでいた。
女の顔が痛みに歪む。
「いったい!!離してよっ!!」
「テメェ、二度とアイツの名前口にすんじゃねぇ」
俺とアイツを一緒にするな。
そう叫び出したかった。あんな、バンドから逃げた奴と自分が一緒にされるなんて。死んだ方がマシだ。
ぐ、と加減も忘れて掴んでいた腕が、女のそれだと思い出して慌てて手を緩めた。振り払うように俺の手のひらから逃れた女は、二の腕をさすりながらこちらを睨みあげる。
「知ってるわよ、アンタが自分のお兄さんのことを隠したがる理由。負け犬になった兄のことが恥ずかしいんでしょ?あんなに自慢だった順市さんが、逃げるようにバンド辞めて、今じゃ売れっ子のホストだもんね」
女の口は止まらない。俺の聞きたくない事ばかりをその口から吐き出し続ける。
「良かったじゃない。あの人、女の子の扱いは上手いもの」
聞きたくない。聞きたくないんだ、そんな話。
胸が苦しい。吐き気がする。耳を引きちぎりたい衝動に駆られる。
「やめろ!!」
気付けば声の限り叫んでいた。



