高い声。振り返って見れば見慣れない女が一人。胸元まで伸ばした緩やかなウェーブの茶髪が、軽やかに揺れた。
「誰だよお前」
「え~、覚えてないの?!さっきまで接客してくれてたじゃん」
大きな目を更に丸く開いて驚いた様子を見せる女は、多分、一般的に言えば美人の部類にはいるんだろう。俺の好みじゃないけど。
「覚えてねえし。客の顔なんかいちいち見てない」
「あんなに目線送ってたのにぃ?敦士くん案外ニブいんだ?」
妙に馴れ馴れしいその女は、細いジーンズの脚を一歩二歩とこっちへ向けた。カツカツと耳障りな靴音を立てるヒールがウザい。
なんなんだこの女は?
睨むようにその小さな顔を見れば、街灯の下でも艶めく桜色の唇が、に、と笑みを形作った。
「バンド辞めてこんなとこでバイトしてるなんて思ってもなかった」
「な……」
「もうヤらないの?バンド」
言葉に詰まった。何も返すことが出来ないまま、ただ俺は目の前で無邪気に問い掛ける女の顔を見つめるだけ。
しばらくすると、その女は肩をすくめるようにして苦笑を漏らした。
「あ~あ、なにもそんな捨てられた子犬みたいな顔しなくても」
「な、なんだよそれ?!」



