「別にいいよ、謝らなくても。他人にどう思われようが僕気にしないから」
大したことじゃない、という様子で笑うオーナーの息子は自分の着ているひらひらしたスカートの裾をペラッと捲るふりをする。
「ていうか僕なんかに惑わされたら眞樹さんの格が下がるよ」
「はは、確かに」
「ちょ、そこ否定しようよ」
「悪い悪い、許して」
冗談を言い合いながらカウンターからステージを眺めていると、ふと真顔になった沢口ジュニアが話題を元に戻した。
「でさ、マジでアイツとバンド組むつもりなの?」
かなりキツい視線が俺を射抜くように向けられる。
相当嫌われてんだな、敦士。
苦笑いで俺は肩をすくめた。新しい煙草に手を伸ばす。横でクリクリした目がそれを咎めるように睨むけど、それは無視。
「一応ね~、今口説いてるとこ。なに、沢口ジュニアは敦士がそんなに嫌い?」
「登だよ」
「へ?」
「だから、名前!ジュニアはやめてって毎回言ってんじゃん!僕には沢口登って名前があるの!」
またまたリスみたいになったジュニア、もとい、登。
やっぱり可愛い。そのへんの女子顔負けだわ。



