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「沢口さ~ん、やっぱりアイツ生意気ー」
いつもの指定席、ビール片手に俺は沢口オーナーに絡んでいた。手近にある灰皿を引き寄せて、煙草の灰を落とす。
対バンをしているステージをぼんやり横目で眺めながら。
「やっぱり?眞樹くんでも手に余る?」
苦笑いを浮かべた沢口さんは、自分も胸ポケットから煙草を取り出した。それにライターを差し出しながら、俺も苦笑。
「いやー、もう1週間も粘ってんだけどね、全っ然。手応えないのよ」
「1週間かぁ~、新記録じゃないか?眞樹くんに狙われたら大抵の子は2、3日でオチるのに」
「なんかそれ、語弊がありますよ」
はは、と笑って俺はあの生意気で反抗的な瞳を思い出す。
「ま、あのガキを少しずつ飼い慣らすのも面白そうだなー、とは思えてきましたけど」
に、と唇を上げながら言えば。呆れた顔したオーナーが肩をすくめた。
「その発言のが充分に誤解を呼ぶよ」
「だあって、アイツ本当にいっぺん調教してやんねーと。でなきゃ此処でヤらせてもらえないっしょー?」
「そりゃそうだが。ま、ほどほどになー」



