俺の兄である順市は、汚点。俺の、汚点だ。
数年前までは兄貴もバンドを組んでいた。当時ステージ上で演奏する兄を観るのは、俺にとってはすごく誇らしくて、憧れで。
あれが俺の兄貴なんだと、友達に自慢する程だった。
それが今は。
「敦士~、俺今から店行くから~」
ノックもなく開けられたドアから覗いたのは、高級そうなスーツに身を包んだチャラい男。
手首に光る無駄にゴツい腕時計はどこのブランドだか、聞く気にもならない。
負け犬だ。
順市の姿を見ていつも思う。
なんでそんなあっさりと音楽辞めれるんだよ、コイツは。
「さっさと行けよ、クソホスト」
ギターを抱えたまま、視線は合わさずに。
俺も兄貴みたいになるんだろうか?
自分が売れるためにやったことを、誰かに否定され、粛清されて。それをメンバーに笑われて。
挙げ句棄てられて?
「俺はあんたみてぇにはならない」
「えー?なんか言った?」
閉じかけたドアの隙間、軽薄な口元が動いた。
「うぜぇ」
それだけ返したら答えはないまま、順市はドアをパタンと閉じてしまった。



