まだ何か言いたそうな橘を残して、俺はその場を立ち去っていた。

人通りのない路地裏を歩きながら、火のつけられていないままで噛み潰していた煙草をさらに片手で握り潰し、捨てた。ポロリとアスファルトに転がったその残骸はすぐに夜闇に溶けて。消える。

まるで少し前の俺みたいに。

まだ、歌えるのに。アイツらに捨てられて、消えた。


「クソだな」


舌打ちと共に、近くにあった立て看板を蹴り飛ばす。ヤワな出来のそれは、呆気なく倒れて鈍い音を立てた。

その様子すらも自分の姿と重なって、なおさら胸の奥が黒く染まった。

反吐が出そうだ。

そう小さく呟いて、俺は足早に自宅マンションへと帰ることにした。

こんな気分の時はさっさとシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ方がいい。そうしよう。

そう、思った。のに。





──数分後。マンションのドアを開けた俺の目の前に飛び込んできた光景に、さらに神経を逆撫でされることになった。