「離せよ」


ぐ、と力任せに振り解こうとした腕は、しかしびくともしない。

どんだけ馬鹿力だよ、こいつ?!

俺よりも10センチは上にあるその冷たい笑顔を睨みあげる。
酷薄そうな唇がつり上がった。


「敦士く~ん、ヤろうよ俺と。バ、ン、ド」


どくん。心臓が跳ねた。


「な……っんで俺がオマエなんかとっ」


だいたい、なんでこの男は俺のこと知ってんだよ。会ったこともねぇはずなのに。

俺はもう一度目の前の男の顔を見直す。
どこかで会ったことがあるのか、と記憶を探るがやっぱり知らない。


「ていうかホント、オマエ誰だよ?!」


半ばキレ気味に問い掛ければ、長身の男はああそうだ、と頷きながら口を開いた。


「自己紹介が遅れたね。俺は橘 眞樹、183センチ、ドラマー。で、誕生日は実は明後日!宜しくね~」


軽い口調に苛々した。こういう奴が一番嫌いだ、と思う。見た目ヘラヘラしてるくせに、腹ん中黒いの丸わかりな奴だ。それでも単純な人間はころっと騙される。


「あんたなんかとはヤらない」


キッパリと拒絶。
本当に今はヤりたくなかったから。バンドなんて。