橘との出会いは最悪だった。


「黒瀬敦士くん?」


飲み屋のバイト上がり、裏口から出た俺は煙草を取り出して口にくわえたところだった。
ひょいと目の前にライターの火が差し出される。


「……誰?」


見たことない男。おろせば肩の下あたりまであるだろう茶髪を、無造作にまとめて後ろで結んでいた。顔の作りは恐ろしく整っている。

薄暗い街灯の下、薄く笑いを浮かべているその口元が、まず気に食わなかった。
直感で嫌いな種類の人間だと悟る。


「キミさ、俺とヤる気ない?」

「は?」


いきなり何?

俺は目の前の男を上から下まで一瞥した。黒のライダースに黒のジーンズ。その上黒のラバーソール。鴉みたいに真っ黒だった。
明らかに怪しい。

相手にすると面倒そうだ、という結論に達した俺はシカトする事に決めた。


「悪いけど急ぐから」


それだけ呟いて、足早にその男の脇をすり抜けようとしたら。


「ちょ~っと待った」


笑顔は変わらないままのソイツは強い力で俺の二の腕を掴んだ。