「あ、わかるぞ、お前の言いたいこと!禁煙もバンドも長続きしねー、根性なしだとか思ってんだろ?」
に、と口に煙草をくわえながら笑って言ったら、沢口ジュニア、満面の爽やか笑顔でひとこと。
「ご名答」
ムカつくガキだ。マジで。
オーナーの息子じゃなきゃ殴ってるぞ。
あ、でも女装男子を殴るのは気が引けるな。
そんなくだらないことを考えてたら、フッと客電が落ちた。と同時に凄まじい歓声。
「始まる」
隣で呟いた声が、一瞬で掻き消された。
確かにいい声なんだと思う。透明で曇りのない澄んだ歌声は、果てしなく続く空を思わせる。ストレートにこっちの胸目掛けて飛んでくる。
でも違う。
「俺が欲しいのはもっと」
ヒトの、胸の裏側に隠してる、どす黒く汚い部分を引きずり出せるような、力強く惹きつける、毒のある声。
そういう声が、欲しいんだ。
「君の声は、俺には綺麗すぎて眩しく映るんだよ、海斗」
ステージで気持ちよさそうに歌うボーカリストに呟いた。



