「見ないでください」

女、いや篠原優子は、しゃくり上げながらそう言って、また歩き出そうとした。

「待てって。そんな顔じゃ教室に戻れないだろ?」

俺は両手で篠原優子の肩を掴み、諭すように言った。

「放っといてください」

「放っとけないよ」

『え?』と言って上を向いた篠原優子の眼鏡を、俺は素早く外してやった。

「あ…」

「動くな!」

俺は外した眼鏡を胸ポケットに仕舞い、ズボンのポケットからハンカチを出した。

そして篠原優子の目や頬を、擦らないように拭いてやった。

篠原優子は大きな目を見開いて、キョトンとしている。

涙はもう止まったようだ。