「ストーップ!」

あと1センチかそこらで、香山君と私の唇が触れ合う所で、恵子の声がした。

「そういう事は、二人だけの時にしてくれる?」

恵子を見ると、ニタニタと笑った顔で私を見ていた。
気付けば、クラスにいるみんなの視線が私と香山君に注がれていた。

恵子と同じくニタニタ笑ってる子もいるし、軽蔑したような冷たい目をした子、恥ずかしそうに頬を赤らめてる子など、色々だ。

「裕樹、恥ずかしいよ…」

私は私を抱きしめる香山君の腕をポンポンと叩いた。

すると「ごめん」と言って、香山君は私を放してくれた。
香山君がどんな顔をしているのかは分からない。恥ずかしくて顔を上げられなかったから。

私は慌てて鞄を持ち、「じゃあね」と恵子に言った。

恵子は微笑みながら、手をヒラヒラさせていた。