高橋から手を離して、膝をついて洗面器の中にタオルをつける。


洗面器の中にはぬるくならないように氷がいくつか入れられていてひんやりとあたしの手も一緒に冷ましてくれて気持ちがいい。

ちゃぷ、ちゃぷとなるべく音をさせないようにしていたつもりだったのだけれど。


「――――――っ、」


ふわっと、左頬に触れたもの。


「……こころ?」


はっと、反射的にそちらへ向いたのと。

掠れた高橋の声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。

視線がかち合う。

ゆっくりと数回瞬きをしてる高橋。あたしは声が出ず、そのまま見つめることしかできない。


「心だ」


ぱちぱちと、眼鏡がないから上手くあたしが見えないんだろう。


じいっと真っ直ぐ見つめてくる高橋はふにゃりと力なく笑う。


温かい手は、相変わらずあたしの頬に当てられたままで。


確かめるように少しだけ動くそれを感じながら、ごくりと飲み込む。