ソレが生まれる前に、と。

高橋も所詮傷物を嫌がるただの男だったんだ、と。


悲しみではなく怒りが心の中を支配するように思い込んで。


結局あたしは素直じゃなくて意地を張ってしまうんだ。…可愛くない。最後くらい笑顔でありがとうございましたくらい言えばいいのに。


高橋から視線を逸らして真っ直ぐ病院の出口へと向かった。


背中に、高橋の視線を感じていたけれど、すぐにそれは消えて。


かつがつエレベーターが見える範囲まで離れてゆっくりと振り返った時には、エレベーターのドアは閉まっていて、高橋の姿はもう無かった。


「終わっちゃった……」

蒸し暑い外の空気に反して、あたしの体はひんやりと冷めてくばかりだった。